ドキュメンタリー ドラマというこだわり
ドキュメンタリー作品を多く手がけてきた野澤監督にとって、本作の企画段階で決めていたことは、悲しい、つらい物語は創りたくない、夢と希望がもてる作品にしたい、ということであった。そこでドラマでいくことに決めたのだが、はたしてこの物語がプロの俳優たちで演じられたらどうなるのだろう?と想いをめぐらせた時、企画が形をもって姿を現してきたのだった。
すなわち、本物のストリートチルドレンたちを使ってドラマを撮るということ。まさにドキュメンタリー監督の真骨頂である。
この映画はドキュメンタリーなのか、ドラマなのか、一瞬解らなくなるシーンが多々ある。例えばアラニオがブッチの家族と食事を摂るシーンなどは、まさにドキュメンタリー、しかし、ドラマでもある。これがドキュメンタリー ドラマというものである。
オーディションに現れたマリア役のリカ・フォルテュナ
オーディションに呼ぶために、監督、スタッフはストリートチルドレンたちが生活している場所を歩き回った。リカ・フォルテュナも候補の一人としてリストに入れられたが、イメージより少し大きすぎる印象があった。
この彼女がオーディションの時、監督の心を射止めてしまったのである。それは、オーディションに向けてであろう、彼女はあらん限りのお洒落をしてきたのである。それはもちろん決していいものを身に付けてきたわけではないが、髪を洗い、きれいに梳かし、洗濯したてのTシャツを着て精一杯アピールしていることはスタッフの誰にも解った。
そんなやる気満々の頑張りに監督は参ってしまったのである。斯くしてマリア役は彼女のものになった。
天候に泣かされた撮影
撮影はマニラをメインに2カ月間にわたってオールロケーションでおこなわれた。まずスタッフを悩ませたのは、現地の天候であった。スコールによる撮影中断は日常茶飯事。特に終盤には台風に襲われマニラ市のほとんどが停電となり、撮影スケジュールが大幅に変更せざるを得なくなってしまった。こんな悪条件のもとでも、子供たちは元気に演じ続けてくれた。
撮影現場はほとんどが現地スタッフ
現場のスタッフのほとんどはフィリピン人である。それによりまず困ったことは、当たり前のように遅刻をすること。1時間程度の遅刻は毎日のことで、これが文化の違いというものなのだろう。いやでもこれを見越して予定を立てることになるのである。
撮影をしているとあっという間にできる人だかり。又、ロケ周辺地は観光客などはまずは入らない危険な場所が多かったため、マニラ市の協力を得て、警官に常に見守られながらの撮影となった。これらの対応はさすがに現地の人間は手慣れたものであった。
英語とタガログ語
子供たちへの演技指導は、まずシナリオを読んでもらってから、というわけにはいかない。何しろ子供たちは字が読めない。シナリオは監督が英語で書き、それをタガログ語に翻訳してタガログ語のシナリオを作ったのだが、それはあくまでフィリピン側のスタッフ用である。演技指導は通訳を交えながらの身振り手振りで演技して見せてから、やってもらう。そしてその修正。この繰り返しで難儀を極めた。でも監督は、彼らの自然な演技を見ていると不思議と元気が出てきた、と話しています。
監督からのメッセージ
路上に生きる子供たちは世界に1億人はいます。貧困、家庭崩壊、戦争など様々な理由で子供たちは路上生活を強いられるわけですが、いずれにせよ大人の社会の責任です。
もっとも悲惨なのは、そうした子供たちが無力で希望さえも失っていることです。
私は、アジアの国々を訪れる度に、路上で健気に生きる子供たちを見て何度も危機感を募らせてきました。
「何かできないものだろうか?」
そんな思いがこの映画製作の第一歩だったのです。
この映画を通して、路上の子供たちに勇気を与えたいと考えております。
そして、日本の子供たちにも、メッセージを送りたいと思います。
他人をいじめたり、引きこもっている場合ではありません。日本の子供たちにも力強く生きて欲しいのです。
映画製作によせて プロデューサー 上田 研二
私は、現在「パーキンソン病」のため歩行が困難であり、声が出にくい等の症状がありますが、病気になったことにより人間には強さだけでなく思いやりや優しさがもっと大切なことだと思うようになっておりました。野澤監督の人間性には以前から信頼感を持っていましたので、今回の作品の企画を聞いたとき監督の持つ弱者に対する優しさあふれる人生哲学に共感し、今回の映画製作に資金面から支援しようと考え実行に移した次第です。現在のフィリピンは貧困層が40%以上いるにもかかわらず世論調査では「幸せですか?」の質問に対し、毎年80%前後の人たちが「幸せ」と答えているそうです。これには、いくつかの理由が考えられますが、「欲望の小さなところに幸せがある」「幸せは物差し次第」「バナナ等が豊富にあり食べるには困らない」「家族や一族を中心とした村の助け合い」「冬場でも気候温暖」等にあると言われています。しかしながら、学校に行きたくとも行けない子供たちも沢山います。
さて、現在の日本はいかがでしょうか?いじめ・自殺・殺人事件等が日常茶飯事に起きており、決して幸せ度の高い国とは思えません。経済的には国民一人当たりの所得格差は同国の30倍をこえております。しかも、マニラでは路上で生活する家族も多く一部の国だけが経済的に繁栄していながら、幸せ度は逆転している状況を決して見過ごすことは出来ません。
この映画を通じて、日本人が忘れがちな「家族愛や他人を思いやる心」「夢と勇気を持つ」ことの大切さを感じ取っていただき、子供たちにもぜひ見せたいと思っていただくことが出来れば幸甚です。

